Becky Chambers “Monk and robot” series

https://us.macmillan.com/series/monkrobot

なんとなく本屋で見かけて手に取った本だけどかなり面白かった。『銀河核へ』の邦訳もあるベッキー・チェンバースのシリーズで、中編2本で構成されている。一本目のタイトルは A psalm for the wild-built、二本目のタイトルは A prayer for the crown-shy

パンガという世界が舞台で、そこではロボットたちが自意識に目覚め、人間と別れて生きることを決めた。それから時は流れ、人類はAIや知的なロボットといった存在とは無縁の生活をしてきた。人類の住むべき領域と、ロボットたちの領域である Wild が分かれ、人間たちは自分たちの領域で生きてきた。時は流れ、ロボットたちの存在はもはや神話のようになっていた。

主人公のデックスは tea monk という、悩みを持った人に茶を提供しつつ話を聞くといった仕事をする人間。 tea monk としては成功を収めたデックスだが、人生に思い悩み、本当にちょっとした理由から禁断の Wild に踏み込んでしまう。そこで出会ったのがロボットのモスカップ。モスカップもモスカップで、長い時をへて改めて人間と接触しようとしていたロボットだった。ロボットたちの質問は一つ — 人類は何が必要なのか? (what do people need?)

デックスとモスカップはそれから Wild を少し探索し、そして次に人間社会に出ていく。一作目は主にロボットたちの生態(というのかなんというのか)やあり方が詳しく描かれ、二作目は人間社会が詳しく描写されている。どちらもそれなりにユニークで興味深い。デックスとモスカップのユニークなキャラクターも味わいがあり、二人の対話も飽きさせない。どちらの作品ともちょっと癒やしっぽいオチがついていて読後感も悪くない。いや面白かった。正直なところ、『銀河核へ』は翻訳で読んでいて途中でダレてしまって投げ出したのだけど、英語で読み直そうかなと思ったぐらい。

本作は「ソーラーパンク」として書かれたと言われていて、自分にはあまり詳しくない用語だった。サステナブルエナジーとかエコみたいなテーマを扱った作品ということで、2009年に提唱されたものらしく、作例はそれほど多くはないようだった。事後的にル=グウィンの『オールウェイズ・カミング・ホーム』や『所有せざる人々』がソーラーパンク作品ということにされているらしい。なるほどそれでこういう人類社会なのかね、と腑に落ちるところもあったりした。

そういうわけでなかなか良かったのだけど、本作は邦訳は非常に難しいんじゃないかなという気がする。それは主人公であるデックスの性別に起因する。デックスは男性でも女性でもなく、作中では常に singular-they が使われている。修道僧(モンク)なので敬称がつけられるが Sibling と呼ばれている(Sibling Dexという表記が多い)。が、すべての人がそうなのではなく、男性なら僧なら Brother がつけられるし、でなければ Mr. がついたり he で呼ばれる人もいるし、女性なら Sister / Ms. / she が使われている。デックスは特別な存在ではなく、ほかにも Sibling や Mx. のついた登場人物は普通に出てくる(ちなみにロボットには it が使われている。モスカップ自身がそうしろというくだりもある)。

この人類社会の性別はどのようになっているんだろうか、というのは興味の一つでもあったし、これが解決しないと翻訳は難しいだろうなという気もする(解決してもぎこちない翻訳になりそうでそれはそれで興をそぐ気がする)。が、2作で終わりだということだがその辺はあまりはっきりとは説明されなかった。単に自己の決定によって Sibling / Mx. / they を選択するのか生まれながらそうなのか、外見だけでわかるような違いがあるのか、みたいなことが気になっている。LGBTQテーマのSFとしてはそこは追求するべきではないような気もするし、だからこそちょっと曖昧なところで終わらせてるような気もするけど、翻訳するとしたら大変そうだなと思った。

短いしそれほど難解な話ではないので、英語で読んでも大丈夫な人は読んでみてください。おすすめ。