シリコンバレーのドローン海賊

SFアンソロジー『シリコンバレーのドローン海賊』を読んだ。ぶっちゃけタイトルに惹かれて手に取ったというのが正直なところ。 https://amzn.to/3X4T7Sg

「人新世」というキーワードで括られたアンソロジーということで、人間活動による環境への影響、環境破壊、生態系の変化、人間たちの変化、といったものが起こるような近未来を描いた作品を集めたものだった。

アンソロジー全体としては結構面白かったのだけど、残念ながらタイトル作品は自分の好みには合わなかった。ドローン配達が発達した近未来のシリコンバレーで、高校生の若者たちが配達ドローンを捕まえる遊びをしているが……という筋立てでアメリカの格差社会を描いているのだけど、あまりにも現代と地続きすぎてSFとしては弱すぎるし人新世というほどのこともなく、魅力を感じなかった。

それ以外の作品はなるほど「人新世」というキーワードを感じられて面白いものも多かった。ただ、他のアメリカ人の作家の作品についても、環境破壊・環境変化については、近年のアメリカ、特に西海岸やニューヨークなどを襲う大規模な山火事による大気汚染の話題から敷衍したような描写が多いように感じられた。もちろん読者に身近に感じてもらうのは小説の技巧の一つではあろうけれど、一方で想像力の限界といえばいいのか、なんといったらいいのかわからないが少し単純化された世界像であるようにも感じられてしまった。それ以外の地域の作品も多くてそれは面白かったが、でも自分の身近のものではないから詳しくないがゆえに新鮮に思えているだけではないか?という不安も覚えて少しモヤモヤする。もっとも、こういうのは本書に限った話でもなく近未来を扱う作品ではありがちなことなのかもしれない。

これはSF作品に何を求めるか、という話なのかもしれない。人によって違うわけだが、自分としては現実世界からの飛躍がそれなりにあって欲しいという気持ちがあり、それゆえに上記のような感想になってしまう。本書の中でも自分として面白かったのは「エグザイル・パークのどん底暮らし」や「菌の歌」、「渡し守」あたりで、この辺は世界設定とは別にSF的な飛躍があり、そこも含めての作品の魅力になっていると思う。ただ「クライシス・アクターズ」や「未来のある日、西部で」はそういう飛躍があると言うわけではないが面白く読めたので、それだけの話でもないのかもしれないけれど。