月: 2021年10月

“Snow Crash” と30年目のMetaverse

ここ最近またMetaverse (メタヴァース)という言葉が話題になってて、もう何度目かとおもいつつ、いい機会かもしれないと思って Neal Stephenson の “Snow Crash” を読んだ。

“Snow Crash” は1992年に発表されたSF小説だが、作中のオンライン世界の名前がMetaverse。本作はとくにアメリカのハッカー・ソフトウェア業界では有名で、多くの人が読み影響を受けたことを表明している。Metaverseが話題になったこともこれまで何度もあった。邦訳も1998年に出ていて、ぼくは2001年にでなおしたハヤカワ文庫版を持ってたんだが、なんとなくずっと読みそびれていたのだが、ようやく重い腰を上げて読んでみたというわけ。邦訳版は渡米のときに手放してしまったので、今回は原語で読んだ。

作品そのものについて

あらためて読んでみたら、これが面白かった。意外というかなんというか、わりと典型的なサイバーパンクっぽさがあるし、現代アメリカを戯画化したような世界設定(たとえばフランチャイズが支配・統治する区画に分かれている)のことも、渡米してみることで実感されることがあった。というわけで今更だけど読めてよかったと思う。SF設定もなかなかおもしろく(しかしこれだけアジアの影響が色濃い作品なのに聖書ネタで来るんだなあ)、楽しめた。

ただどうしても書かれた時代というのは鼻につく面はある。日本の存在感が強い(Nipponeseと言われている)のもそうだし、ソフトウェアは工場労働者のように生産されるようになってしまってハッカーの存在感が消えてしまい、主人公はピザ配達をしているという序盤の設定も、正直なところ時代を感じる。そもそも snow crash という言葉自体も、ソフトウェアがバグで止まってしまって意味のないランダムな画像を出しているのを表現したものだというのが時代を感じるよね、現代なら青い画面(blue screen of death)になっているだろうなあ。

(心底どうでもいい雑談だが、Neuromancerの冒頭の有名な「港の空の色は空きチャンネルに合わせたTVの色だった」は、本来は灰色の曇り空のことだったが、青い画面が出ることが多いので青空を意味していると解釈され、もともとギブスンはそういう意図で書いていたという話も広まっているらしいね)

というわけで、それなりに同時代性のある作品であるわけで、あらためて読む必要があるとか、今読んでも褪せないとかは、さすがに言いづらいところはある。楽しく読める面はあるのだけどね。

Metaverseについて

で、Metaverse。これも正直なところ、今読んでもこれが当時どれだけのインパクトがあったのかを想像するのがむずかしい。Metaverseはもう現実にとっくに追い越されているので、ふつうに読むと「フーン」といった感想しか生まれないだろう。

Metaverseは端的に言うと3Dのバーチャルリアリティなインターネットだ。VR chatだといってもいいし、Second Lifeだといっても間違いではない。ヘッドマウントディスプレイを装着して閲覧できる仮想空間。自作のアバターでうろちょろできる。いろんな人が自分の世界を構築できてワイワイできる。

これについて2021年の今から考える際には、1992年という時代を想像しておく必要があると思う。商用インターネットというものはなかった。オンラインのコミュニケーションはアメリカならCompuserveはあったけど物好きだけのものだった。というふうに考えれば、ほとんど誰でも参加できてオンラインコミュニケーションがとれる現代のネット・ウェブ的な世界が、けっこう「まとも」に描いているのは興味深いようにも思える。というよりは、こういうSF小説(たち)の想像力が、現代のオンラインコミュニケーションの作り手たちに影響を及ぼしたというべきだろうか。

もちろん現代ではVRはそこまで普及していない。VR chatもあるし、Second Lifeもあるけれど、Metaverseの描かれ方はもっとウェブ的なオープンな世界で、誰でもサーバを立てたりできそうな世界に思えて、そこは(VRMLとかあったけど)まだ来ていないとも言える。複数のサーバにまたがった世界で個人は同じアバターを継続的に使う(使わないといけない)シングルサインオンで単一IDな世界でもあり、そこも実現されていないけれど、これは実現されないほうが良かった話なような気もするかな。

というわけで、読んでみて改めて感じるのは、2021年にもなっていまさらMetaverseが話題になってるのはヤバいなということだ。まあVRということをかっこよく言いたいというだけなのかもしれないが(Metaverseという単語のかっこよさ、というのはこれが最初に流行ったときの重要な要素ではあるはず)。

結論

Snow Crash は90年代のハッカーコミュニティに多大なる影響を与えたのは間違いないし、Metaverseはいまもって奇妙なバズワードとして存在している。でもそういう文脈のために読む価値は、Snow Crashにはもうないと僕は思う。作中のビジョンはもう実現されてしまっている。でもまあ当時はやっていたサイバーパンクの作品群のひとつとして、SFとして、ふつうに面白いとは思う。

9月に読んだ漫画

先月同様に主にタイトルのみ。67冊。多かったな。ジョジョリオンを一気読みしたのが大きい。

『SHIORI EXPERIENCE』7-17

先月からつづきで読んでた漫画。まあまあ。

『ウィッチウォッチ』2

『SAKAMOTO DAYS』3

『ルックバック』

『白井カイウ✕出水ぽすか短編集』

『ハイパーインフレーション』2

ハイパーインフレーション、1巻ではピンとこなかったけどなんか面白い気がしてきた。

『1日外出録ハンチョウ』12

『機動戦士ガンダム サンダーボルト』8-18

これも溜まってたのを一気読み。面白い。すでに知っていたけど腱鞘炎の悪化でいきなり絵柄がかわるのはびびるな。

『青の花 器の森』8

『ダンジョン飯』11

『生き残った6人によると』1

『夏を知らない子どもたち』

『星あかりグラフィクス』1-3

『神客万来』3

『ジョジョリオン』1-27

完結したので一気読みした。が、まあ……一気読みするもんじゃないなと思った。最後はグダグダだったし、テーマが10年たつとこう、時代性を失っている。

『ブルーピリオド』11

『はじめてのひと』6

谷川史子はどれを読んでもけっきょく同じような話になってしまう。だが、それがいいのだ。

『邦キチ!映子さん Season 6』

ネットで公開された当時は読めなかったシン・エヴァンゲリオンの回が読めて良かった。

『スポットライト』3