月別: 2016年4月

テット『サイロ・エフェクト』 — 文化人類学の逆襲

サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠 (文春e-book)

橘玲氏の書評を読んで興味が出たので読んでみたが、面白い! もっと読まれるべき本だし、この書評で扱われている内容よりも遥かに広いスコープを持った本で良いと思う(橘玲氏、最初の2章からしか紹介してないけど後半も読んでるのかなぁ。別にいいけど)。

この本には刺激的な内容がいくつもある。データ・サイエンティストたちがニューヨークのサイロをまたいだデータを分析して様々な問題をあぶりだす話や、OpenTableの重鎮がシカゴ市警に転職して成果を上げる話など、コンピュータナードに響く話もあるが、フィナンシャル・タイムズの記者をしていた著者だけに、金融ネタ……とくにサブプライムローンの問題がどうして見逃されてきたかをサイロの視点で解き明かしていく部分が一番分量があるし、読みどころなのかもしれない。個人的には、ソニーのサイロ化の話を受けたフェイスブックにおけるサイロ対処の取り組みの話が面白かったし、ある種の組織論にもつながっている。

余談ながら、ソニーの事例で面白かったのは、ストリンガーがサイロを壊せなかったのは日本語を喋れなかったからじゃないか、というくだり。現場を動きまわってそこで何が起きているのかをつかむ、ということが(言語の壁によって)できなかったストリンガーは、指示を下してもなかなか思うように動かないもどかしさに絡め取られていく……。

一方、成功事例のほうは褒めちぎりすぎというか、これはこれで眉に唾をつけたくなる面もある。ほんとうにこんなことでうまくいくのかなぁ、みたいな難癖をつけたくなる気持ちもある。が、それはたぶん正しい読み方ではないのだろう。どのようなサイロがあるかによって対処すべき施策は変わる。ある状況におかれたときにどう動いたか、という事例研究でしかないと見るべきなんだろう。

それはさておき、いっぽうで著者が強調するのは、サイロがそれ自体で悪だというわけではないってことだ。というか、ものごとが専門的になり、効率化をすすめる上でサイロは必然的に構築されていくものだ。たとえばサイロを打破しようというフェイスブックの事例では、取り入れた施策によって、逆に物事の効率が下がってしまうこともあると説明されている。でもサイロにとらわれすぎてしまうと長期的には大きな問題を抱え込むことにもなる。「サイロを克服するには、この両極の間の細い道をうまく渡っていかなければならない」というわけだ。

文化人類学の視点

ただこの本が本当に面白いのは、こうしたサクセス・ストーリーや失敗事例の紹介にはないと思う。むしろ著者の背景が関係していると見るべきだろう。

テットは学生時代は文化人類学を専攻しており、旧ソ連の支配下にあったタジキスタンの僻地の村で参与観察をしていたらしい。その後ジャーナリストに転身したわけだが、この「文化人類学的な視点」がサイロの分析に役に立つ、というのがこの本の主要な主張である。

こういう話に文化人類学のような分野を応用するっていうのがぼくは大好きなので、この時点でこの本は勝ちだな、と思った。

もちろん文化人類学だけがそのように特権的地位があるわけではない。が、インサイダー兼アウトサイダーであるとか、「踊らない者」であるとか、秀逸なキーワードを使いながら語るのが本書の持ち味と言えるのではないか。文化人類学の発展、とくに西欧の工業化社会のありようも文化人類学の領分となった過程も丁寧に紹介している点も面白い。

おすすめ。

 

MMRがディープラーニングを敵視している件

話題の↓のツイートなんですけど、これ新刊の単行本なんですね: 新生MMR迫りくる人類滅亡3大危機!!

MMRの新刊がでてたとは知らなかったのでさっそく買って読んでみたんですが、読んでみると意外とこう……真面目なネタをいろいろ仕入れてるなあと。

この本、「三大危機」というタイトルにあるように、三話構成でそれぞれ別な理由により人類は滅亡の危機なんですけれども、一本目は太陽フレアで人工衛星が狂ってスペースデブリで大変なことに!というやつ。二本目はスーパーボルケーノで人類が滅亡する!というやつ。で最後はシンギュラリティの到来によりAIが人類を滅ぼす!と。ディープラーニングはこの文脈。ホーキング博士がなんか言った件なども引用されていたりして、なんというか……なんだろうなこれは、っていう気分になる。

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ホーキングあんま似てない気が……

もちろんそこにノストラダムスやレジデンス・オブ・サンを盛り込んでみたり、なんだかいろんなよくわからないネタを盛り合わせてみたり、話を過剰に展開させるなどして荒唐無稽なところまで話をつき進めていくのだし、そこに至るまでのドライブ感はいつもどおりではあるんだけど……とくにイエローストーン地下のスーパーボルケーノ! それなんていうかこう、実話じゃん、みたいな。そこの部分は。

なんとも不思議な読後感になるのであった。

ただ、中高生を中心に読まれていたころとは時代も違うし、読者層も違う(いまは当時の読者層であるオッサンが主力だろうし)。そうした状況においては、これのほうがいいのかもなあ。虚実のバランスの取り方を考えてしまった。


うってかわって巻末の番外編はキバヤシの馬鹿話。かなり笑いました。キバヤシ先生、神の雫でもないのにワインポエムを詠んでいらっしゃる……!

そしてあとがきのボヤキもなんとも味わい深い。

でもやっぱり面白さでいえばひとつ前の復活編のほうが面白かったかなぁ。この見開きの面白さである。

2016-04-21
お前今更何言ってんだ

シアトルに行ったのでスタバ一号店に行ってきた

ちょっとシアトルに出張に行ってきた。土曜に空き時間を作ったので市内観光ということで、スターバックス1号店にも行ってきたのだった。

諸般の事情でホテルはカークランドエリア(シアトルからはワシントン湖を挟んで反対側、車で30分ぐらい)にとっていたので、路線バスに乗って近くまで来てテクテク歩く……歩く。それにしてもシアトル市内、スタバ多すぎないか。日本のコンビニぐらいの密度でスタバがあるぞ。

さて適当に近づいてくると妙に商業的に栄えた……というか、観光地化したエリアにたどり着く。その中を歩いていったらそれらしいものを見つけた。というかすごい行列。店の外まで列が伸びている。スタバのくせに。

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店内も人だかりで、とてもゆっくりできる感じではない。客もみんなで自撮りしまくっておりなんなんだこれはなんの店なのだ、という気分になる。

そこでは記念品(この店舗でしか売ってないという触れ込みの、昔のロゴのマグ)とカフェラテを買い、混雑から脱出。近くの観光エリアのベンチでカフェラテを飲んでいく。なんの変哲もないいつものカフェラテだが風景は素敵。

で、カフェラテを飲みながらスタバ公式サイトの紹介記事を読んでみると、ちょっと話が違う。

まず内装写真が全然ちがう(こんなに広くない)し、テーブルが云々とかトイレが云々とか、あまりにも違う。おかしいなと住所で検索してみると、ちょっとずれている位置にある。

https://www.google.com/maps/place/102+Pike+St,+Seattle,+WA+98101/@47.6090899,-122.3421025,17z/data=!3m1!4b1!4m2!3m1!1s0x54906ab2fe9acb81:0xa02a33c8ba2ae24

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あ、行く途中に存在には気づいてたけどスルーしたこっちのやつか! 騙された、というのとは違うが(何せここが一号店でござい、とは誰も言ってない。人が多い、ロゴがちょっと違う、記念グッズ売ってる、などから勝手に勘違いしていただけだ)、しかし、なんだったんだあの混雑は。

(追記:けっきょく私の勘違いであり混んでいる方であってたというツッコミを受けました https://twitter.com/kzys/status/721878319029821441)

ともあれカフェラテを飲み終えたのでそっちにも行ってみた。

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こっちも人はそれなりに多いけど、先ほどの店舗と比べると随分空いていて落ち着いた雰囲気だ。変な観光地っぽい雰囲気もなく、むしろ真剣にコーヒー豆を選んでいるおじいさんがいたりして、地元民に愛される普通のスタバの雰囲気に近い。

メニューには店の前のストリート名を冠した豆があったので、これがイチオシであろうということでその豆を頼んだ。店内に配されたCLOVER(という特殊なコーヒーメーカー。動作がなんだかかっこいい)で淹れられたコーヒーは……まあいつものスタバのコーヒーであってあまり美味しいものではなかったけれども(そもそも僕はスタバに代表されるセカンドウェーブコーヒーは好きではない)、今回はそれでいいよな、ってことで大テーブルでのんびりとジョジョ4部を読みながらコーヒーと一号店の雰囲気を楽しんだ。

なお完全なる余談かつウィキペディアからの引き写しですが、スターバックスというのはそもそもサンフランシスコ在住の3人組が創業した時は、コーヒー豆をローストして売っていた店であって飲み物としてのコーヒーを売る店ではなかったらしい(『白鯨』に由来するスターバックスという名前は、英語教師、歴史教師、作家であったという3人の出自が大いに関係していることだろう)。そして3人と親交があり、コーヒー豆を焙煎する技術を伝授したのは誰であろう、Peet’s Coffeeの創業者であるAlfred Peetその人なのだという(と言っても知らない人は多いでしょうが、Peet’sはカリフォルニア州バークレーで創業されたカフェチェーンで、シリコンバレー・ベイエリアにはやたらいっぱい店舗がある)。

スターバックス創業者たちはその後80年代にPeet’sを買収するが、さらにその後、スターバックスの元従業員で当時は別のカフェを経営していたハワード・シュルツという男にスターバックス自体を売却してしまう。ハワード・シュルツは自分の事業をスターバックスの名前でリブランドして事業継続、もともとのスターバックス創業者たちはPeet’sの運営をしていたということのようである(ハワード・シュルツをスターバックスの「創業者」と見なすのは、この意味では正しい。現在スターバックスとして知られる事業体の創業者はハワード・シュルツの方ということになる)。ついでに言うとPeetはオランダ人だったし、現在のスターバックスのスタイルはどちらかといえばハワード・シュルツによるもののようだ。

という話を知って私はむしろPeet’sのことが少し好きになったが、さてではスターバックスの一号店とは実際にはどの店のことなんだろうか?

少なくとも公式サイトに「1971年」と書いてあるこの「一号店」は、最初に3人が創業したスターバックスの店舗であるようだ(細かく言うとほんとのほんとの創業地からすぐに移転したのが現在この「一号店」の店舗だという)。すると、ハワード・シュルツがIl Giornaleという名前で創業したカフェの場所、というのもきになるところ。どこかに残されているのだろうか?

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本題とは全く関係ありませんが、「偽」一号店脇にいたストリートミュージシャンが連れていた猫が可愛かった

イングリッシュブレックファストうどん

作ってみたよ、話題のイングリッシュブレックファストうどん。

食べてみたけれども、ふむふむ、ふーん? となるな。

まあうまい。確かにうまい。なぜか違和感がない。でもこれ食ってる時の感じというのは、端的に言うと「ああうどんとベーコンと目玉焼きを食べているなあ」という感じではないか。そのことに何の文句があろうか? と問われれば何の文句もなくうまいわけだけど、ここにもう一段の飛躍を期待したいところではないか。これはあくまでも起点、アメリカンスシにおけるドラゴンロールいやその前段階であって、ここからはじまるカンブリア爆発的な展開がありえないものだろうか。何言ってんだろうな俺。

もう少し面白そうな展開はないだろうか? たとえば薄切りの生牛肉が乗ってたりとか、とんかつが乗っていたりとか、チョリソーにチーズを乗せたりとか、パクチーが入っていたりとか……って、それあんまやりすぎるとWagamamaになるんじゃね?という気もするな……。

まあそのうちまたやってみますよ。

Batman v Superman。かっこいいんだけどねえ……

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世間の評判どおり、うーん、て感じでしたね。

ザック・スナイダー先生はたいていいつも、画面はむちゃくちゃかっこいいんですが、話のほうがどうにも、なんだかよくわからない感じになってしまっている。これもそんな感じ。

なんでこんな話なんだっけ? なんでこんな展開なんだっけ? という疑問が多すぎでは。長い話なのに、キャラの動機付けなどが今ひとつよくわからなくて、どうしてこういう展開になったのか、この時点でなんでこのキャラはこういう行動だったのか、などがもう一つよくわからない。

そもそも今回の悪役、レックス・ルーサーは何がしたかったのかよくわからないし、ブルース・ウェインのほうも、なぜレックス・ルーサーと協力しないのかとか、でないにしても両者の違いが明らかになるようなくだりはなかったような。ワンダーウーマンが参戦する流れも、なんでなんだかよくわからない。途中の白昼夢もさあ、ああいう絵面はみんな好きだと思うし俺も好きだけど、でもいらないよなあ。

でも映像はとにかくかっこいいんだよね。こういう映画においてかっこよさは正しさではある。とくにベン・アフレックのバットマンのかっこよさ(とフランク・ミラーの描くバットマンぽい感じ)はかなりよかった。アルフレッドとのコンビもいい感じ。

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“frank miller batman” の検索結果。顎の角ばった感じがよい

でもなあ、それだけじゃなあ、って思うんだよな。もうちょっとこう、あるだろう。なにか。